■ 旧約聖書のハリネズミ ■
残念ながら,現在我が国で最も一般化していると思われる「新共同訳」聖書には,ハリネズミは一度も登場しない。
『新共同訳 旧約聖書語句事典』(教文堂,1992.04.)で確認すると,そのかわりに,3箇所にヤマアラシが登場している−−−イザヤ書14章23節,34章11節,ゼファニア書2章14節である。
「わたしは、彼らに立ち向かう」と
万軍の主は言われる。
「バビロンから、その名も、名残も
子孫も末裔も、すべて断ち滅ぼす」と
主は言われる。
また、「都を山あらしの住みか、沼地とし
滅びの箒で、掃き清める」と
万軍の主は言われる。
(イザヤ書14章22−23節)
ふくろうと山あらしがその土地を奪い
みみずくと烏がそこに住む。
主はその上に混乱を測り縄として張り
空虚を錘として下げられる。
(イザヤ書34章11節)
主はまたその手を北に向かって伸ばしここで「山あらし」と訳された部分は,ヘブライ語で書かれた聖書原典,すなわち,いわゆるマソラ本文では,いずれも 「キッポード qippod (qippodh)」という単語である。
アッシリアを滅ぼし、ニネベを荒れ地とし
荒れ野のように干上がらせられる。
そこには、あらゆる獣が
それぞれ群れをなして伏す。
ふくろうと山あらしは柱頭に宿り
その声は窓にこだまする。
杉の板ははがされ、荒廃は敷居に及ぶ。
(ゼファニヤ書2章13−14節)
歴史をたどると,この語は七十人訳(前3〜2世紀に完成したギリシャ語訳)では echinos,ウルガータ(紀元後400年ごろ,ヒエロニムスによるラテン語訳)では ericius と訳されており,それぞれハリネズミを指す。ただし,ピーター・ミルワード Peter Milward(『聖書の動物事典』)によれば,ericius は一種の鳥とも考えられていたという(これはありそうにない気がするのだが,本当だろうか? qippodh が指すのが ericius/ハリネズミ ではなく鳥なのではないかと考えられた,というのならわかるし,後述のように事実そういうことはあったのだが,ミルワードの文は,ericius というギリシャ語自体を鳥の名前と見なす人がいた,という意味だとしか解釈できないのだ)。
同じくミルワードによれば,この qippod は,ほかに,サンカノゴイ(英国の欽定訳),サギ,ノガン,ハリネズミ,ヤマアラシなどとも訳されてきた。Revised Standard Version (1952-1964) では,hedgehog すなわちハリネズミと訳されているようだし,ドイツ語版でも Igel(ハリネズミ)である。ピーター・フランス(『聖書動物事典』)によれば,さらにカメという訳もあり,現代の諸訳では,フクロウが人気であるという。
現在でも,この語の示す動物については意見の一致を見ておらず,ウェブ上の聖書語句辞典(英語)でも,項目によって執筆者それぞれがまったく相反する見解を示しているのが面白い。『新聖書注解』(いのちのことば出版部,1975.09.)では,イザヤ書14章の注解で,「〈針ねずみ〉の語源は「転がる」で、敵に攻撃された時、丸くなって転がるところから名づけられた」としているが,これはこの qippod のことだろう。というのも,ネット上のヘブライ語辞典を見ると,qippod と関係のありそうな qaphadh という語に roll up の意味があるからだ。もっとも,危険に際して丸くなったハリネズミが,自力で転がることはできない(傾斜地であれば引力の作用によって下方に転がることはある)から,『新聖書注解』の執筆者が「転がる」としているのは,roll up(巻き上がる,丸くなる)の意を取り違えたものだろう。
★ Too Trivial! ★日本では,カトリック系のバルバロ訳『口語訳旧約新約聖書』で,イザヤ書の2箇所は「はりねずみ」,ゼファニヤ書の部分は「さぎ」と,同じ単語を訳し分けているが,これは,後者では「その声は窓にこだまする」という一節が後に続くことから,文脈を尊重して一貫性を犠牲にした,苦肉の策だったのだろう。確かに,窓にこだまするヤマアラシの声というのは,明らかに変だ。
qippod については,EAFT(欧州術語学協会)のサイトの,Ephraim Nissan の論文“Registers of use, and ergolectal versus literary niches for neologising creativity. What do the makers of technical terminology stand to learn from such contrastive analysis? ”中,Cross-language Adaptation Tactics の項で,脇筋ながらふれられているが,これは我々,言語学や聖書学のターミノロジーに通じていない門外漢が読むには,あまりにも煩瑣な内容を含む。
該当箇所は以下のパラグラフである。特に後半は構文もつかみきれず,文意がよく取れなかったが,読者諸賢のご教示をまつため,原文の下にあえて拙訳を示す。
In fact, the Talmudic qurpday (the root being qpd, with consonant dissimilation in the middle cluster) for some swarming/creeping kind, perhaps 'mole', was (aptly so) metamorphosized into the Modern Hebrew qarpada for 'toad', by influence of the French crapaud indeed. The written forms of the ancient zoonym were qrpd', qwrpd' possibly with y following; these forms diachronically share a given nominal derivation pattern across Semitic languages: Arabic qunfud; Biblical Hebrew qippod (with the vowels according to the standard Tiberian tradition; in Modern Hebrew qippod means 'hedgehog'); Tannaitic Hebrew spelling qwpd; Qumran Isaiah scroll qwpd' and qpwd; Syriac qoppeda; Targumic Aramaic quppeda; these being listed here according to the table in Kutscher (1959, p. 383). It is interesting to observe that there is a domain of use - namely, fable, along with the scholarly repertoire of motifs from international folklore - in which it is not convenient that the Modern Hebrew noun qarpada is in the feminine (which incidentally, is not true of its Aramaic precursors, whose -a ending was merely adapted into a Hebrew feminine suffix). A toadified prince requires a masculine name for 'toad', hence the derived noun (back-clipped from the feminine form) qarpad, which by the way is befittingly rhyming with `arpad for 'vampire', where `arpad too, is a Modern Hebrew noun obtained from an ancient, likewise late-antique name for some somewhat unclear, apparently unpleasant creature[4] in order to name yet another motif ('vampire') from international fable and folklore.
(by Ephraim Nissan)
実際,タルムード(ユダヤの律法集)の qurpday は(この語は qpd をルーツとするが,中央の音結合群に子音の異化が見られる),群居性の/地をはう 何らかの生き物,おそらくは「モグラ」を意味したが,確かにフランス語の crapaud(ヒキガエル)の影響を受けることによって,ヒキガエルを表す現代ヘブライ語の qarpada へと(絶妙にも)転化した。なお,現代ヘブライ語で qippod が「ハリネズミ」を表すのなら,もうこの語に他に意味を求める必要はなさそうなものだが,バツマル師によれば,現代ヘブライ語というのはそもそも古代ヘブライ語を流用して作られた言語であり,古代ヘブライ語の単語に対する後世の解釈が誤っていれば当然現代ヘブライ語でも意味を取り違えたまま用いられることになるわけで,鵜呑みにすることはできないという。
この古代の動物名(?)の筆記形は qrpd', qwrpd' で,語尾には y が付いたかもしれない。これらの語形は,セム系の諸語において,通時的に所与の名詞派生パターンを共有する。すなわち,アラビア語の qunfud,聖書ヘブライ語の qippod (標準的なテベリヤの(?)〔Tiberian = of Tiberias?〕伝統にしたがって母音を補っている。現代ヘブライ語の qippod は「ハリネズミ」を意味する),タンナ(タルムードの基礎となったミシュナの教説を説いた1〜2世紀パレスチナのユダヤの律法学者たち)のヘブライ語でのつづりでは qwpd,クムランの〔死海文書の〕イザヤ書では qwpd' および qpwd,シリア語では qoppeda,タルグム(旧約聖書のアラム語による部分訳)のアラム語では quppeda 。以上は,Kutcher (1959, p.383)の表によって示した。
ある使用領域−−すなわち,国際的な民間伝承に見られるモチーフの学問的な一覧表に従えば,「寓話」の領域−−においては,現代ヘブライ語の名詞 qarpada が女性名詞であることが不都合となってしまうということに注目してみるのも面白い(このことは,この語に先行するアラム系の単語には,たまたま当てはまらない。それらの語の語尾が -e で終わるのは,単にヘブライ語の女性接尾辞に合わせたものに過ぎない)。すなわち,ヒキガエルにされた王子(の話)は,「ヒキガエル」を表す男性形の名詞を必要とするのだ。それゆえに,(女性形の後部をカットして)導かれた名詞 qarpad が,−−ついでながら,この語とちょうど韻を踏む,「吸血鬼」を意味する語 `arpad も同様なのだが(?),−−古代ヘブライ語から現代ヘブライ語に取り入れられたのである。同じように,国際的な寓話と民間伝承のさらに別のモチーフ(「吸血鬼」)に名前を与えるために,何だかはっきりしない,見かけの不愉快な何らかの生き物を表す古代後期の名詞が取り入れられている。
一方,プロテスタント系の,日本聖書協会の『聖書』では,新共同訳と同じく,すべて「やまあらし」と訳している。また,日本聖書刊行会発行の「新改訳」聖書では,上記イザヤ書の2箇所を「針ねずみ」としているが,日本聖書協会の「口語訳」聖書では,34章の方は「やまあらし」としている。
イザヤ書ではユダヤ民族の2王国を圧迫したバビロンの,ゼファニヤ書では同じくアッシリアの都ニネベが,将来廃墟化することが告げられている。『新聖書大辞典』(キリスト新聞社,1971.02.)の記事で,橋本重郎は,「はりねずみの習性として,荒れはてた所にすみ,多くの場合,孤独な生活をしているから,バビロンはやがて滅亡し,その跡ははりねずみのすみかのような荒廃したたいへんひどい所になるという預言の言葉である」としている。
イスラエルの動物を紹介した こちらのページ のように,これらの預言から,ハリネズミがあちこちに転がって「危なくて歩けない」廃墟の情景を想像するのもなかなか楽しいが(『テンペスト』で妖精たちに嫌がらせを受けるキャリバーンの愚痴が思い出される),実際は,『新聖書大辞典』のように,「ハリネズミしか棲まないような所」を示すものと考えるのが妥当であろう。
それにしても,「ハリネズミのすみか」が「荒廃したたいへんひどい所」の代名詞になるというのも,ずいぶんな話ではある。わがアジアでも,シベリアと東南アジアと島嶼部(日本のような)を除くたいていの所にはハリネズミが棲息しているのだが,ヨーロッパに至っては,もちろん緑の見られない都市中心部は除いてだが,ほぼ全域が「ハリネズミのすみか」なのだ。「ほぼ」というのは,北欧諸国でも特に北極圏に近い北方地域にはさすがにハリネズミの姿は見られないからだが,ラップランドやアイスランドよりも,プロヴァンスやバイエルンの方が,荒れ地の名にふさわしいというのだろうか。
★ Too Trivial! ★なお,歴史上ハリネズミと訳出されたことのある語は,旧約聖書中にほかにいくつかあるが,それらについても,いずれあらためて考えてみたい。
万軍の主は言われる,「わたしは立って彼らを攻め,バビロンからその名と,残れる者,その子と孫とを断ち滅ぼす,と主は言う。わたしはこれをはりねずみのすみかとし,水の池とし,滅びのほうきをもって,これを払い除く,と万軍の主は言う」。↑これは確か,ウェブ上で拾ってきた訳文だったかと思うが,万軍の主が「万軍の主は言う」と言ってしまっているあたり,訳文に遺漏が目立つ。「水の池」も,英語で言えば pool of water で「水の溜まり」なのだから,単純に池とか沼とか訳してしまえばよいものを,変に原語にこだわるから珍妙になる。
(イザヤ書14章22−23節)
これと見比べると,新共同訳の訳文は,ずいぶん改善されているようだ。
★参考:
Anakah Rashi
hedgehog Rashi
(2002.03.21. 最終推敲:2004.04.26.)
■ 地獄のハリネズミ ■
そもそも我々の知る仏教の「地獄」において最も目に鮮やかなのは,業火の紅蓮である。
八大地獄(八熱地獄)は,より罪の重い者が落とされる深い層に行くほど,その熱もますます高くなる。八寒地獄なるものも設定されているが,亡者が寒さのために「あただ」と悲鳴をあげる「あただ地獄」,同じく「ここば」と悲鳴をあげる「虎々婆地獄」など,八熱地獄と比較すると,ネーミングにもかなり投げやりなものが感じられる(こちらやこちらのウェブページもご参照)。
キリスト教の「地獄」にも,仏教のそれほどではないが,やはり紅焔のイメージがある。寡聞にして知らないが,他の多くの宗教でも,事情はおおむね同様なのではないだろうか。
ところが,ゾロアスター教の地獄だけは,いささか趣きを異にする。そもそも,天国・地獄というイメージは,ゾロアスター教から始まったものであるとの説があるが,古代ペルシアの国教でもあったこの宗教は,中国に入ったとき,「[示夭](けん)教」あるいは「拝火教」と呼ばれた。あらゆる現象を善神と悪神の相克としてとらえ,善神の象徴として,太陽,星,そして火を崇拝したこの宗教では,地獄に落とされるべき罪の中にも,火を粗末にしたり,火に対して不敬な振る舞いをしたりすることが数えられている。そんな崇拝の対象である火が,同時に亡者を苦しめるための道具であっては,はなはだ具合が悪かったのだろう。
そんなわけで,ゾロアスター教の地獄では,火は用いられない。その代わりに目につくのは,亡者たちを苦しめる動物たち,特にヘビの姿だ。
姦通の罪を犯して宙づりにされた女の全身に食らいつく,ヘビやサソリやカエル。
虚偽を言った者の舌に食らいつく悪虫。
そして,そんな動物たちの中に,我らがハリネズミも姿を見せているのだ。
夫との約束を破り,家に戻らなかった女を責めるのが,地獄に巣食う「鉄のハリネズミ」の役目だ。
……どんな責め方をするのかは知らないが,朝帰りをした女たちが受ける罰は,他の亡者たちより,ずいぶん楽なのではないだろうか。
この,ゾロアスター教の地獄にいるハリネズミについては,カーター卿にご教示いただいたこちらのウェブページで知った。ありがとうございます。
(2004.01.04. 最終推敲:2004.01.04.)
■ ゴムあたまポンたろう ■
『ゴムあたまポンたろう』は,独特の不思議な雰囲気の絵本を描き続けている長新太さん CHO, Shinta 1927- の作品(童心社,1998.03.)。
主人公のポンたろうは,ゴムでできた頭で何かにぶつかっては弾み,世界中を跳ね続ける男の子。弾めないような柔らかいところや,ゴム頭に刺さるような鋭いものの上に落ちて,旅が終わってしまうことを恐れているが,いつもうまい具合にことが運ぶ。
動物たちがズンズン歩いているところに落ちてきたポンたろうは,例によって「どうなるかなあ?」と心配する。果たして,ハリネズミがいっぱい遊んでいるところに落ちてきてしまい,泣きたくなるが,ハリネズミたちはコロリと上を向いて足でポンたろうを蹴り,「サッカーだ、サッカーだ!」と叫ぶ。
この作者らしい大胆な描線で描かれたハリネズミたちは,4本の足をまっすぐ天に向けて体高の何倍もの長さまで伸ばしており,ほとんど地球上の生物のようには見えない。
この絵本は,第4回日本絵本賞を受賞している。
(2002.09.14. 最終推敲:2002.09.14.)
■ 「三十六禽」とハリネズミ ■
− 幻のハリネズミ座 −
現在「えと(干支)」といえば、普通、十干十二支のうちの十二支のみを指し、それも十二支のそれぞれに配当された「十二獣」のイメージでのみ語られることが多い。しかし十二支は本来、「干支=幹枝」と呼ばれた10×12を1サイクルとする暦法上の“二重円環システム”のうち、より副次的な方の歯車(つまり“枝”の方)であった。それが、ほとんど年末年始の一定期間に限られるとはいえ、現代でも世間の注目と関心を集めることができるのは、年賀状の挿し絵のモチーフとして重宝な、十二獣のイメージがあるおかげだろう。
今年が(十二支ではなく)十干の方でいえば何に当たるかを問わて、正しく答えられる人は、果たしてどれだけいるだろう。十二支全てを音読みでそらんじることができる人は珍しいが、甲、乙、丙、丁以下の十干を音読みで全て言える人は、今やおそらくそれと同じくらい少ないだろうし、それどころか、きのえ、きのと以下を正しく数え上げられる人さえ、今や少数派かもしれない。
まして、「三十六禽」となると、目にしたことのある人すら、ほとんどないのではないだろうか。
隋代の人、蕭吉 ショウキツ の著した『五行大義』の第五巻には、「論三十六禽」という条があり、そこには十二支の動物たちの一日三回の変化が記されているという。たとえば「子(ね)」であれば、四六時中「鼠」であるのではなく、朝は「燕」となり、昼に「鼠」となり、暮れには「伏翼(=コウモリ)」となる、という具合。
いったいに、神秘の領域に通じると称し、それをもって生計を立てる者は、飯の種である自分の知識が人々のよく知るところとなり、俗化して新奇さや神秘性が失われたと見ると、その知識の体系に新たな枝葉を付けることによって韜晦を図り、斯道の専門家としての権威を回復し権益を取り戻そうとするのが常である。ヨーロッパの占星術師たちもそうだった。意地の悪い目で見れば、十二支から生まれたこの「三十六禽」も、さしずめその類ではないかと思われる。
三十六禽の一覧は、中野美代子『西遊記の秘密 −タオと煉丹術のシンボリズム−』(福武書店,1984.10.)p.190 を参照されたいが、ハリネズミはこのうち、「卯」の動物として記載されている。すなわち「卯」は、昼は「兎」だが、朝は「[オ胃](ハリネズミ)」、暮れは「貉(ムジナ)」となるのである。一説に、朝は「狐」、暮れは「鶴」ともいうが、ハリネズミがウサギと結びつけられ、またキツネと互換されることは、なかなか興味深い。
十二支が十二方位に対応していることは言うまでもないが、天の赤道に近い星々から成る中国の星座「二十八宿」も、十二支との対応がとられている。十二支を細分化した三十六禽では、多少の異同を含みつつ、八種の動物が脱落して、二十八種がそれぞれ二十八の星宿と対応している。
「卯」は方位でいえばちょうど真東に当たるから(船乗り用語の「おもかじ」は卯面舵の転化、「とりかじ」は酉舵から来たと言われる)、東を司る蒼龍七宿のうちでも、中心を占めるテイ宿(てんびん座)、房宿(さそり座の頭部)、心宿(アンタレスを含むさそり座の中心部)に相当する。テイ宿には暮の「卯」である「貉」、房宿には昼の「卯」である「兎」が当てられるが、惜しいことに、心宿に当たる朝の「卯」の動物は、「[オ胃](ハリネズミ)」ではなく、異説の「狐」の方が当てられている。
心宿すなわち大アンタレスは、星空の道標として太古から知られ、天の赤道に悠々と身を横たえる蒼龍星座の心臓になぞらえられる。ちっぽけなハリネズミのイメージは、この星にはあまりにもそぐわないということか。そういえば,「[オ胃]」の字には、ギュッと縮まるイメージから、「胃」の声符が含まれている。“心の臓”の星に“胃の腑”では、確かに見過ごしにできないミスマッチだったかもしれない(二十八宿には別に「胃宿」という星宿もある)。
ちなみに、心宿の次に来る尾宿(さそり座の尾部。中国星座では蒼龍の尾部)は十二支で「卯」の前に位置する「寅」に支配され、相当する動物は「虎」である。中国の伝承では、トラはハリネズミを天敵とするというが、トラが当てられた星宿のすぐ前にハリネズミが当てられるはずだった星宿があること(あるいは、トラと隣り合う星宿にハリネズミではなくキツネが当てられたこと)には、何か意味があるのだろうか。まさか、虎の威を借る狐というつもりだったわけでもないのだろうが。
なお、別項で紹介したハリネズミとトラの伝承には、さらにカササギがからむが、年に一度、淑女星と牽牛星の橋渡しをするといわれるこの鳥は、三十六禽の中には含まれていない。
蛇足ながら、西洋星座の中には「うさぎ座」があり、また、「こぎつね座」という星座もあるが、「とら座」や「はりねずみ座」は存在せず、また、私の知る限りでは、かつて存在したこともないようである。(1999.12.21.? 最終推敲:2004.01.29.)
■ スキャリーおじさんとハリ ■
リチャード・スキャリー(スカーリー)SCARRY, Richard 1919-94 は,アメリカの幼児向け絵本の作者。「スキャリーおじさん」(「スカーリーおじさん」とも)の名前を聞いたことがない人でも,絵を見ればきっと見覚えがあるはずだ。ネコやブタやイヌやキツネといったさまざまな動物たちが人間のように暮らす「ビジータウン」を舞台とする,主に生活英語修得のための学習絵本を,数多く執筆しており,その数は約200冊,これまでに十数か国語に翻訳され,世界中での発行部数は数千万部ともいう。
★ Too Trivial! ★スキャリーのメイン・キャラクターの中にハリネズミはいないが,たとえば,『スカーリーおじさんのはたらく人たち』("Busiest People Ever" 1976.) には,青い服を着た小柄なハリネズミが,2度ほど姿を見せている。
スキャリー絵本には,タイトルに 〜 ever(今まででいちばん〜)がついているものが多い。
2001〜02年に話題になった大人向けの英語学習法書『ビッグ・ファット・キャット』の本のタイトルも,あるいは故スキャリーおじさんを見習ったものかもしれない。
彼の名前は,Hooligan。すごい名前だが,おそらくはアメリカ人である作者から見た,英国人のイメージなのだろう。スキャリー・キャラ総出演といった感じの "Richard Scarry's Best Picture Dictionary Ever" (1966) では,Hooligan が女の子ハリネズミの Hepzibah とともに何度か出演しており,表紙にも顔を出している。また,同書では,Hooligan and Hepzibah とは別に,double decker bus(2階建ての,いわゆる「ロンドンバス」)の車掌として,大人のハリネズミが1度だけ登場しており, やはりスキャリーのハリネズミには英国人のイメージが強いらしいことがわかる。
スキャリーの没年に出版された『スキャリーおじさんのにぎやかなビジータウン』("Richard Scarry's BUSY, BUSY TOWN" (1994)) は,色使いが以前よりも鮮やかになり,以前よりは現代的な雰囲気の絵になっているが,こちらには「ヘンリー」という名の,さらに小柄なハリネズミが登場している(この名前は,「3点セット」の項でご紹介したような,HEDGEHOG COMPANY のガーデニング・グッズのキャラクター Henry のイメージから来ているのかもしれない)。木馬に乗るヘンリーの姿は限りなく子どもっぽいが,この見開きは「きでものをつくるしごと」のコーナーであり,説明文にも「ヘンリーは もくばをつくっていて、のりごこちを ためしている。」とあるから,やはり彼は大人のクラフトマンなのだろう。
(2002.08.19. 最終推敲:2002.09.08.)
■ アリスとハリネズミ ■
− ボール 兼 陪審員 −
ルイス・キャロル CARROLL, Lewis『不思議の国のアリス Alice's Adventures in Wonderland 』(1865) 中,首切りマニアの女王が主催するクローケー大会で,フラミンゴがハンマー(正確には「マレット」という),ハリネズミがボール,トランプの兵士たちがゲートとされていることは,よく知られている。
★ Too Trivial! ★『アリス』はディズニー・アニメにもなっており,ハリネズミたちも当然出演している。ちなみに,ディズニー作品では,タイトルは“Alice in Wonderland”と縮められている。邦題の表記は『ふしぎの国のアリス』で,ビデオ・DVDは,2002年夏,「ウォルト・ディズニー・クラシックス」の1つとして販売されている。
2002〜03年,北陸製菓から発売されている「アリスのティーパーティー」というオマケ付きクッキーのシリーズの第2弾には,「クロケーをするアリス」として,このフラミンゴをかかえ,ハリネズミを踏みつけたアリス(後述のテニエルによる挿し絵を忠実に立体化したもの)が含まれている。写真はこちら(“HOWDY!!”のひろみさんにご教示いただいた)。
なお,このページでは,なぜかボールをアナグマとしているが,もちろんこれは間違い。
ディズニーに限らず,「アリス」は書籍としても映像としてもさまざまな形で作品化されているから,それらの作品を集めるだけで,ちょっとしたハリネズミ・コレクションが出来上がる(「グリム童話集」についても同じことが言える)。
★ Too Trivial! ★
1923年にアニメーション制作会社ニューマンズ・ラッフォグラムを倒産させたウォルト・ディズニーが再起を果たし,世に出たのは,『不思議の国のアリス』を原作とした「アリス・コメディー」というシリーズ実写作品によってであった。この作品にハリネズミが登場しているかどうかは,未調査。
ちなみに,ウォルトがミッキー・マウスというキャラクターを思いついて,彼の主演する1本目のトーキー・アニメーション「蒸気船ウィリー」を世に問い,大人気を博するのは,この5年後,大恐慌さなかの1928年のことである。
ところで,『アリス』の挿し絵で有名なのは,何と言ってもジョン・テニエル TENNIEL, John 1820-1914 による原典の挿し絵であろう。フラミンゴと顔を見合わせて途方に暮れるアリスの足下には,丸くなってアリスの片足に押さえつけられたものと,体を伸ばして逃げ出そうとするものと,2匹のハリネズミが描かれている。
"Alice's Adventures in Wonderland"
Random House
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★ Too Trivial! ★だが,このクローケーのシーン以外に,ハリネズミが登場するテニエルの挿し絵がもう1,2葉あることを,読者はご存知だろうか。
2002年に Templar 出版から出されたものでは,クローケーのシーンが表紙2面を飾り,トランプの兵士とフラミンゴとハリネズミだらけの画面は,明るい色調,アリスの笑顔,そして,いたずらっぽい表情の動物たちと相俟って,何とも楽しげな風景となっている。挿し絵は Cinzia Ratto というイタリア人女性。
タイトルは,ディズニー作品と同じく,“Alice in Wonderland”となっている。
最後の裁判シーンで,証人として呼ばれたアリスはあわてて立ち上がり,陪審席にスカートを引っかけてひっくり返す。この,陪審席ごとひっくり返されてしまう陪審員の小動物たちの中に,ハリネズミがいるのだ。
"Alice's Adventures in Wonderland"
Random House
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宙に投げ出されつつあるハリネズミは,すでに体を丸めて防御態勢をとっており,にわかにそれとは判別しにくいが,これが確かにハリネズミであることは,幼児向けの翻案カラー絵本『おとぎの“アリス”』(高山 宏 訳,ほるぷ出版〈ほるぷクラシック絵本〉,1986.02.;原著 THE NURSERY "ALICE", 1889)の中で,キャロル自身が請け合っている。
この後の,アリスがトランプに襲いかかられるシーンでも,やはり陪審員だったモグラの隣りに,ぼんやりした丸いものが見えるのだが,これがハリネズミであるかどうかは,さすがに断定できない。惜しいことに,『おとぎの“アリス”』でも,このボールについては特に言及はないからだ。
なお,『不思議の国のアリス』の前身に当たる『地下(地底)の国のアリス Alice's Adventures under Ground 』という作品では,キャロル自身が挿し絵を描いているが,ここでは,クローケーのマレットはフラミンゴではなく,ダチョウであった。おそらくキャロルは,『地下の国のアリス』刊行後に,いくら何でもクローケーのマレットにダチョウは大きすぎるということに気づいて,『不思議の国のアリス』ではフラミンゴに変えることにしたのではないだろうか。
"Alice's Adventures under Ground" Panda Print
“HOWDY!!”のひろみさんにいただいた情報によれば,1953年にパンダ・プリント社から刊行された版では,ダチョウを抱えて途方にくれるアリスの挿し絵が表紙を飾っていたという(「MOE」誌1991年7月号による)。『地下の国のアリス』のこの挿し絵では,テニエル版『不思議の国のアリス』と同様,アリスの足下にハリネズミが描かれている(ただし逃げ去ろうとする1匹のみ)。『地下の国のアリス』本文および挿し絵は,こちらのページを参照。なお,この作品(キャロルが1864年のクリスマスにアリス・リデルに送ったオリジナル)の邦訳復刻版である『不思議の国のアリス・オリジナル』(書籍情報社)のカバーは,植物紋様になっている。
(2001.10.10. 最終推敲:2004.05.22.)
■ プーとウサギとハリネズミ ■
遊園地のイベント、新作劇場アニメ、ショップの売り場を所狭しと占領するキャラクター・グッズ……
2000年夏、あのディズニー社が満を持して大々的に売り出した商品は、「くまのプーさん」だった。今や、「プーさん」といえばディズニー・アニメと、頭の中でしっかりイメージが結びついてしまっている人も多いのではないだろうか。
だが無論、「プーさん」はディズニーのオリジナル・キャラクターではない。
今回のキャンペーンの一環として、“CLASSIC POOH”のブランド名で新たに売り出されたキャラクター・グッズ群がある。ディズニー・ブランドとして売られているにもかかわらず、ディズニーのアニメーションとは明らかに雰囲気を異にする“レトロ”な絵柄。
そう、あれこそが「オリジナル版」のクマのプーさん、いや、“Winnie-the-Pooh”の世界なのだ。
※ ディズニー社のコマーシャリズムは、すでにディズニー自身を超えている。『クマのプーさん』シリーズは、英国の作家A.A.ミルン A. A. MILNE, 1882-1956 によって、1920年代の後半に発表された。
「プーさん」というヒット商品の仕掛けとその成功の背景には、長期的には、日本での衰えぬ「ピーター・ラビット」人気があり、短期的には、(レトロ・キャラクター掘り起こしの先行例としての)前年からの「キュリアス・ジョージ」の流行があり、そしてその中間に、(人間の子どもとモンスターたちとの、ロビンソン-フライデー的ともいえる非対称的関係が、まさしく「プーさん」の世界を思わせる)「ポケモン」のロング・ヒットがある。
いずれにせよ、20世紀最後の夏、ある種感慨深い夢商人の選択ではある。
実際のところ,「くまのプーさん」は,オリジナル作品の低迷期,ディズニー社の不調を救ってくれた作品でもあった。
『ディズニーとは何か』(有馬哲夫,NTT出版,2001.11.)によれば,ディズニー社の体制は,ウォルト生前,ウォルト死後,そして1984年以降現在に至るマイケル・アイズナー体制の3つに大きく分けられる。ディズニー社がテーマパーク経営にかまけて作品制作に消極的になり,ディズニー・アニメーションが不振をきわめたアイズナー登場以前の時代に,唯一のヒットとなったのが「くまのプーさん」なのだ。ディズニーが他の人間が著作権をもつものを作品化したのは,「くまのプーさん」が最初で最後であるという(ほかに同じく英国の児童文学を素材とした「メリー・ポピンズ」もあるが,これは純粋なアニメーションではなく,実写・アニメーション合成映画)。
主人公は、のんきでマイペースな「ちっぽけな脳みそのクマ」、ウィニー・ザ・プーと、その友達で人間の男の子であるクリストファー・ロビンだ。
脇を固める面々も、いずれ劣らぬ個性派ぞろいである。臆病なコブタ、せわしないウサギ、ちょっといじけた老ロバのイーヨー、知ったかぶりのフクロ……
『クマのプーさん』では途中からカンガとルー坊の親子が、また、続編の『プー横丁にたった家 The House at Pooh Corner』では、さらにユニークなニューフェイス、トラー Tigger が加わる(ディズニー・アニメのファンなら、彼のことは「ティガー」と呼ばなければしっくりこないだろうけれど)。
イーヨーのとれてしまった尻尾を直す場面などからもわかるように、これらのキャラクターたちは、いずれも本物の動物ではなく、ぬいぐるみをモデルとしている。
モデルとなったぬいぐるみの持ち主は、実在の Christopher Robin 君−−作者の一人息子にして、物語の最初の聴き手でもある。
シリーズの途中から現れるカンガやルー、トラーたちは、きっと後から子ども部屋にお目見えした仲間たちだったのだろう。
★ Too Trivial! ★もし、あなたが『クマのプーさん』を−−無論アニメ絵本などではない、原作シリーズの方だ−−読んだことがおありなら、一度試してみてほしい、先に挙げた9人(?)の主要人物−−プー、コブタ、ウサギ、イーヨー、フクロ、カンガ、ルー、そしてクリストファー・ロビン−−のほかに、一人でも登場人物を思い出すことができるかどうかを。
『プーさん』シリーズは、クリストファー・ロビンが小学校に通う年齢になり、プーたちとひとまず別れを告げるところで終わる。
容易に予想されるように、成人してからのクリストファー・ロビンは、人からプーと仲間たちのことを言われるのをいやがったという。
なお、挿し絵について言えば、主人公のプーの絵のモデルだけは、挿し絵画家 Ernest H. Shepard の息子の持っていたテディ・ベアだった、との説もあるらしい。
クリストファー・ロビンのぬいぐるみたちの写真は、岩波ハードカバー版の巻末で見ることができるが、これを見るかぎり、実在のウィニー・ザ・プーは、確かに我々の知るシェパード版のプーには、あまり似ていない。
何にせよ、岩波書店から出ている邦版でも、シェパードの挿し絵はそのまま使われているし、ディズニー・アニメのキャラクターたちも、タッチこそまったく違うが、それぞれの造形そのものは、シェパードの絵からかなり忠実に起こされている。
『不思議の国のアリス』におけるテニエルの挿し絵のごとく、いや、たぶんそれ以上に、彼の絵は『プーさん』の作品世界のイメージを、しっかりと規定しているのだ。
余談だが、英国では『プーさん』と同様に広く親しまれている児童文学の名作、ケネス・グレアム Kenneth Grahame の『たのしい川べ The Wind in the Willows』(1908) にも、同じシェパードが挿し絵を描いている。
ミルンもまた『たのしい川べ』を愛読した一人だったというが、劇作家でもあった彼は、「プーさん」シリーズで人気を博した後、『たのしい川べ』の翻案劇を発表している(『ヒキガエル館のヒキガエル』北星堂)。
「プーさん」シリーズの第1作を刊行したとき、ミルンはすでに成功した作家だったから、彼の方から特にシェパードへの指名があったということも考えられる。
なお、『たのしい川べ』はヒキガエルを主人公とする物語であり、ほかに川ネズミ、モグラ、アナグマといった仲間たちが登場するが、残念ながらこの作品にハリネズミの姿はない。
ところで,「クマのプーさん」の著作権は,1961年,ディズニー社によって原作者ミルンから買い取られてしまったから,たとえ原作版の「プーさん」の挿し絵であっても,ディズニー社の許諾なしで利用することはできない。
「クマのプーさん」のモデルはミルンの息子クリストファー・ロビンのぬいぐるみであり,“Winnie”の名は,小さなクリストファー・ロビンが大好きだった,“The ZOO”ことロンドン動物園のクマ(雌)の名前にちなんでつけられた。
ミルンの作品の登場人物に(もちろんただで)名前を譲ることになったこの初代ウィニーは,当時ロンドン動物園の人気者で,1934年まで生きた。もともとウィニーは,後に第一次世界大戦にまで拡大する国際紛争の勃発とほぼ同時期の1914年8月,カナダに駐屯中の英国軍部隊に所属していたハリー・コルバーン中尉(ウィニペグ州の獣医)が猟師から買い取った,母親を殺された子グマだった。コルバーンはウィニーを,ウィニペグ市の駅近くで買ったとも,英国に派遣される途中,オンタリオ州のホワイトリヴァー駅で20ドルで買ったともいう。子グマはウィニペグの名にちなんでウィニーと名づけられ,軍隊とともに英国へ渡り,隊のマスコットとして愛されたが,コルバーンはさらに部隊とともにフランスへと移動することになったので,ウィニーはロンドン動物園に預けられ,後に正式に動物園へ譲渡された(岩波書店『クマのプーさん』訳注,『ディズニーとは何か』による)。
1990年,ホワイトリバーの町(ウィニーの本当の出身地?)は,町起こしのために巨大なプーさん像を飾ろうとした結果,ディズニー社によって「法的手段に訴える」と脅しをかけられたが屈せず,ディズニー社は結局,原作絵本版の「プーさん」イメージに限り,しぶしぶ使用を許可している(『ディズニーとは何か』による)。
……いかがですか?
実際に絵本をひもといてみると、まず第1話に、(クイズの答えとしては少々反則くさいが)物語の語り手(作者)自身が登場している。
それから、同じく第1話で、プーに仕事を邪魔される、気の毒なミツバチたち(後に見るように、虫たちだって立派な登場人物なのである)。
さて、そのほかには?
……実は、シリーズ全体を通して、残りのエキストラの役柄を一手に引き受ける、ご都合主義的なエキストラ集団があるのだ。
「ウサギの親せき友人一同 all Rabbit's friends-and-relations」−−あなたはこの名前を思い出すことができただろうか?
エキストラ集団とはいえ、名前の判明している構成員が全くいないわけではない。
カブト・ムシノスケ Alexander Beelle と、トテモチビノ・カブトムシ Very Small Beetle が、その数少ない例外だ(邦名は岩波書店版,石井桃子訳による)。
前者は『クマのプーさん』のノース・ポールてんけん隊の話に登場し(登場するや否や引退してしまったが)、後者は『プー横丁にたった家』で、ウサギの編成した捜索隊の捜索対象となっている。
この2人のほかに、グループにはどんなメンバーがいるのだろう。本文にはほとんど手がかりがない。仕方がないので、挿し絵に目を転じてみよう。
まず、何羽かのウサギがいる−−これは「ウサギの親せき友人一同」のうち、「親せき」の方だろう。それに、何匹かのネズミ。
あとは、リス、カエル、イタチが、各1匹ずつ。虫たち。そして最後に……1匹のハリネズミ!
この名もないハリネズミが挿し絵に登場するのは、『クマのプーさん』のうち、プーがウサギの穴に詰まってしまうお馴染みのエピソードで、まず1回(これについては後述)。ノース・ポールてんけん隊の話で2回。プーの慰労会が開かれる最終話で1回。
さらに『プー横丁』でも、上記のチビ捜索隊の話で1回登場している。
気がついてみれば、けっこうたびたび姿を見せているのだ。
番外として、もう一つ挙げられるのは、絵本見返しの地図だ。よく見れば、ほぼ画面中央に、豆粒のように描かれたハリネズミの姿を見つけることができる(それでも、「ウサギの親せき友人一同」の中では、彼の絵が一番大きい!)。
この無名氏の姿が最も大きく、はっきりと描かれているのは、「プーがお客にいって、動きのとれなくなるお話」だ。
ウサギの穴の玄関に詰まってしまったプーを、クリストファー・ロビンとウサギと「親せき友人一同」が総出で、行列をつくって引っ張ってやる。
その行列は、クリストファー・ロビンを先頭に、概ね体の大きさ順になっているのだが、おそらくはこのエピソードの原イメージを提供したであろうロシア民話「大きなカブ」においてもそうであったように、ウサギたちよりさらに小さなネズミやイタチなどの小動物たちは、実のところほとんどものの役に立っているようには見えない。
そんな行列の中に、我らがハリネズミ君の姿をさがせば、おや? それほど小さいわけでもないのに、列のほとんど最後尾についているではないか。
だが、このことはべつに、不思議でも何でもない−−彼の後ろには、誰もつくわけにいかないだろうからだ。★ Too Trivial! ★また、「ノース・ポールてんけん隊」の話の挿し絵では、川に落ちたルー坊を助けるために、ロバのイーヨーが尻尾を水に垂らしている。その後景には、どんどん流されていくルー坊を追いかけて走っていく動物たちの姿が見えるが、ここでもハリ君は、仲間たちに大きく引き離され、どんじりを駆けているのだ。
この挿し絵には、原著では色がついているのだが、岩波書店版では、少年文庫・箱入りハードカバーとも、単色になってしまっている。
色付きのものは、各種欧文版で見ることができるが、ことハリ君に関して言えば、どちらでもほとんど見栄えに違いはない。
また,岩波書店の「クマのプーさん絵本」シリーズはカラーなので,このうちの『プーあなにつまる・ふしぎなあしあと』(石井桃子 訳,1982.06.)で確かめることもできる。
彼の性質について、判断の手がかりになるようなものはほとんどないけれども、この絵から、とにかく敏捷さと縁のない人物であろうことは察しがつく。
この影の薄いハリネズミ君も、ディズニー版には、当然のごとく登場していない(はずである)。★ Too Trivial! ★
安達まみ氏は次のように述べている。
「(前略)だが、初めての大規模な近代戦争の経験は、社会を決定的に変えた。もはや以前のようなファンタジーの成立は危うくなる。この時代に意識して懐古趣味的な詩や物語を書いたA.A.ミルンは、遅れてきた児童文学作家といえよう。良き時代の自らの少年時代の戸外の冒険や遊びを、息子クリストファー・ロビンのおもちゃ遊びに重ねあわせ、いつでも立ち戻れる飼い慣らされたファンタジーの世界を描き、児童文学誕生の世紀に終止符を打ったのである。」(週刊朝日百科「世界の文学」14,1999.10.)
いわば“ねらって”書かれた、「いつでも立ち戻れる飼い慣らされたファンタジー」……この点だけをとれば、確かに『クマのプーさん』は、ディズニーにはうってつけの作品であったともいえるだろう。
(2000.02.20. 最終推敲:2002.11.12.)
■ ハリネズミぐるみ ■
みずしな孝之 の『戦え! アナウンサー』は,テレビ局を舞台としたアナウンサー4コマだ。白泉社「ヤングアニマル」誌に連載されていた。
主人公は,報道志向ながらなぜかバラエティー一直線の人気アナ,クボショーこと久保梢子。マルテレビの看板番組「マルマル大発見伝」で,奇抜な着グルミを身にまとい,大活躍していた。
「ハリネズミぐるみ」の登場は,第3巻(白泉社〈JETS COMICS〉,2000.07.)。寝坊の上に二度寝で,朝番組「ねじまきテレビ」に思いっきり“アナをあけた”クボショー。
久保「小松崎さん 今日はすみませんでした」
小松崎(ディレクター)「しっかりしてくれよ しかも寝坊!?」
小松崎「じゃあ今夜から寝るときはこれを着ろ タイマーつきハリネズミぐるみー!」(額に時計のついたネズミぐるみを掲げる)
小松崎「セットした時間になると針が出るしくみだ!」
(「ハリネズミぐるみ」の顔面部を除く全身から「ジャキン」と鋭い針が出る)
久保「ああ そのぐらいなら」
小松崎「着るときはこれを表裏ウラ返して」(針だらけの「ハリぐるみ」の内外を裏返して掲げる)
久保「キャーン」(絶叫)
……タイトルは,「アナ穴だらけ」。
「ハリネズミぐるみ」の顔は,まるっきり(漫画タッチの)ネズミだ。実在の「ハリぐるみ」としては,英国王立バレエ団によるティギーおばさんのものがあるが,ハリの大きさはだいたい鉛筆程度である。
ちなみに,この前の回では,「イガ栗ぐるみ」ととてもまぎらわしい「ウニぐるみ」も登場している。
(2001.10.03. 最終推敲:2004.01.07.)
■ ハリ×2 vs. オコジョさん ■
「しあわせソウのオコジョさん」は,かわいらしい容姿とは裏腹の凶暴なヤンキー性格がやっぱりかわいらしいオコジョを主人公にしたアニメーション。2001年10月2日から2002年9月24日までの1年間,テレビ東京系の6局で放映された(火曜18:00〜18:30,BSジャパンでは水曜18:25〜。オフィシャルサイトはこちら)。
主人公であるオコジョのコジョピーは,無口な大学生,ツチヤに飼われており,作品には,コジョピーの子分であるネズミのチョロリや,ツチヤの友人のサエキなど,彼らを取り巻く動物や人間たちが登場する。
この子ども向けアニメに,レギュラーではないが,ハリネズミが登場している。2002年2月5日に放映された,第18話その1(=前半)の「ハリネズミはお上品?」という回だ。
主人公のコジョピーは,退屈しのぎに,子分のチョロリを連れ,住処であるしあわせ荘の2階を探検する。コジョピーたちを待っていたのは,お上品そうなハリネズミ。だが,興味をもって近づいていったコジョピーは,突如凶暴化したハリネズミに,ズタボロにされてしまう。同じことが何度か繰り返され,コジョピーとチョロリはヘロヘロになってダウン。たまたま帰ってきた飼い主のツチヤに連れ帰られる。
実はこのハリネズミたち,双子の姉妹で,一方はお嬢様(ピョンキー),もう一方は凶暴(ピャンキー)という性格であり,わざとコジョピーたちを混乱させて楽しんでいたのだった……というオチ。
双子ハリネズミの出番はこれだけだが,最終話では,行方知れずのコジョピーを探して,ツチヤがハリネズミの飼い主たち(田所姉妹)の部屋も訪れるということだから,もしかするとこのときにもう一度登場しているかもしれない。
★ Too Trivial! ★動と静,性格が180度違う双子姉妹が2人1役で主人公をたぶらかす,という筋立ては,実は,原作者と同じ白泉社系の佐々木倫子(代表作『動物のお医者さん』『おたんこナース』)が,10年以上前(『動物のお医者さん』で大ブレイクする以前)に,ある作品で使ったネタである。
このハリネズミたちは,原作コミック『オコジョさん』(宇野亜由美,白泉社〈花とゆめCOMICS〉,「月刊ララ」に連載中)には登場しない。アニメでハリネズミたちの飼い主に設定されているのは,るる・るかの双子の小学生姉妹で,これより前の回からたびたび登場しているキャラクターだ。コミックでは,この双子は第59回(第5巻所収)に単発で登場しているが,オコジョやツチヤと同じアパートの住人ではないし,飼っている動物も登場しない。「田所」という苗字も,アニメのオリジナルだ。
そもそも原作では,主人公の“オコジョさん”や子分の“ネズミ”には,名前さえついていない。アニメ版オコジョさんのトレードマークともいえる頭の葉っぱも,アニメ版独自のキャラクターデザインだ。そもそも,タイトルにある「しあわせソウ」というアパートそのものが,アニメ版のオリジナルなのである。
作者は,“月刊少女誌のギャグ漫画作家”という,いかにもな立場のお約束を裏切らず,先々の生活への不安を一度ならずネタとして作品中に描き込んでおり,ビンボーネタに走ることも多い。『オコジョさん』にも,主人公たちの隣人として,いつもテンパっている女性漫画家を登場させている。
「ララ」2000年6・7月号に掲載された『東京に行ってみよう!』の前編(『オコジョさん』単行本第4巻所収)では,作者が担当編集者たちに,「私ねー楽して稼ぎたいんです」「アニメ化とか狙えませんかね?」「もう全然原作無視してくれてオッケーなんで……」と持ちかけるシーンがある。さらに,「プータオ」誌(同年秋号)に掲載された『ラクして儲けまshow!』(単行本第6巻所収)では,もう一歩突っ込んで,作者と担当編集者たちが,キャラクターもののイベント会場に乗り込み,無謀なアニメ化売り込みをかける話だった(漫画の趣向そのもの以上に,あまりにもベタなタイトルに,笑えないのを通り越して,やりきれないものを感じてしまう)。
瓢箪から駒が出てアニメ化の企画が現実化したのは,この後のことらしい。
コミックの『オコジョさん』は,もともと『ぼくらはみんな高血圧!』というシリーズ中の,複数の併走ストーリーの一つであった。第5巻の描き下ろし漫画によれば,
「『高血圧』は私が月収3万円しかなかったころニームラさん(いぬかわ註:当時の担当編集者)の『ポシャってもすぐ次にうつれるように』という妖精さんのような心づかいをうけてつけたシリーズ統一タイトルでした」
とのこと。『オコジョさん』の掲載誌初出は平成8年12月号だが,単行本収録作品から判断すると,『高血圧!』シリーズそのもののスタートは,それより1年以上前にさかのぼることができる。現在のコミックタイトル『オコジョさん』は,2001年のアニメ化決定により,正式に『高血圧!』からリニューアルされたもののようだ。
複数ストーリーが併存していた『高血圧!』シリーズが,やんちゃな小動物キャラのかわいさが売りの『オコジョさん』に一本化されたことにより,作者は,本領である“下品でくどくてえげつない”(と作者自身が形容している)作品の発表の場を失ってしまった。他誌で『ダーリング』という(“本領”に則った)作品の連載をスタートしたが,1年に満たずあえなく打ち切りの憂き目にあう(日の目を見なかったこの作品は,『オコジョさん』単行本第5巻に収録されている)。その代わりとして,掲載誌の「メロディ」では,『諸国漫遊オコジョさん』がスタート。作者の嗜好と読者サイドの(あるいは編集サイドの)要求は必ずしも一致しない,という一例であろう。
現在,作者は「月刊ララ」の『オコジョさん』本編,隔月刊誌「ララDX」の『オコジョ番長』,そして上記月刊誌「メロディ」の『諸国漫遊オコジョさん』と,3本のオコジョさん連載を抱えている。その胸中はいかばかりか。
原作コミックの『オコジョさん』にはないエピソードなので,このパクリ本歌取りも,アニメの制作スタッフによる仕業と見るのが妥当だろう。
この第18話は,DVD(バンダイビジュアル)では第5巻に収録されている。
★ Too Trivial! ★なお,ピョンキー・ピャンキー姉妹のほかに,第15話「うばわれたコジョピー」でも,しあわせソウの大家の息子で“小動物博士”の仙堂一朗が,品揃えの悪い悪徳ペットショップの店長をいたぶる際に,他の珍しい動物とともにオオミミハリネズミの名前を出し,店長の頭の上にオオミミハリネズミが(さらに別の動物たちが)降ってくるイメージが見られる。
もしも,「高血圧」シリーズ企画時の「ハイハイ,キャワイイ小動物ものを1コくらい混ぜときゃいいんでしょ?」的な投げやりな姿勢が,結果的に『オコジョさん』というアニメ化作品につながったのだとすれば,その皮肉が逆に作者のやる気をさらに失わせるものとして作用したとしても不思議はない。作者は同情されるべきかもしれない(「余計なお世話だ」との声も聞こえてきそうだが)。
ところで,無口で無表情でシブいツチヤと,下世話なガチャガチャキャラのサエキに,『動物のお医者さん』のハムテル・二階堂コンビの面影を見るのは,私だけだろうか。
また,オープニング・テーマのアニメーションでも,他の小動物たちとともに,赤いメッシュ(モヒカン?)のオオミミハリネズミが姿を見せている。このオープニングの動物たちは,番組最後の「今回の勝負」のときに,勝ったコジョピーを囲んで拍手してくれる。その中には,作中番外編である「オコジョ番長」(本編に登場するキャラクターたちが,生徒や教師として同じ学校に通っているという設定の,パラレルワールド・コメディ)に登場する動物も含まれるようだが,メッシュ・ハリもそのうち登場するのだろうか? スポンサーのバンダイは,キャラクター商品やDVDを販売しており,かわいい動物キャラをたくさん出したがっているだろうから,ハリネズミもその意向にそって,とりあえず深く考えずに露出させられているものかもしれない。
2月5日の放映を見てご連絡をくださったぽちさん,ありがとうございました。
(2002.03.22. 最終推敲:2002.11.13.)
■ ちびおおかみ ■
小さなオオカミといえば,ノルシュテインのアニメーション「話の話」を思い出す向きもあるだろうが,これは別のオオカミ君のお話。
東欧自由化10周年に当たる1999年秋から2001年1月にかけて開催された「東欧絵本の世界展」は,徳島・愛知・新潟・和歌山・北海道と,なぜか(と言うのは不遜なのかもしれないが)首都圏に立ち寄ることなく終了した。無念の思いから?同展示会のカタログを取り寄せた「ゆ」氏が,ハリネズミのトゲを身にまとったオオカミが登場する絵本のことを教えてくれた。
件の絵本は,ポーランドの画家ユゼフ・ヴィルコン WILKON, Jozef の作品『ちびおおかみ』(1993年,ゲルダ・ヴァーグナー 文)。主人公の“ちびおおかみ”は,少しもオオカミらしくない,やさしいオオカミだ。小さな動物たちを獲物として襲うどころか,仲良くなってしまう。親オオカミたちは我が子の有り様に嘆き,チビオオカミはよその森へ旅に出る。そこで出会ったネズミの助けを借り,オオカミらしく生まれ変わろうとするチビオオカミ。身にまとうのは,トラの毛皮,ハリネズミのトゲの帽子に,ライオンの牙。しかし,いくら外見を恐ろしげにしても,中身は元のチビオオカミだ。結局,変装をやめることにしたチビオオカミを,親オオカミやきょうだいたちも,あたたかく受け入れる。
カタログに挙げられているのは,絵本の表紙の,装備万端でご満悦のチビオオカミの肖像や,その恰好で家路を急ぐチビオオカミの姿。チビオオカミがかぶるハリネズミのハリ付き毛皮のハリは,長さをかなり誇張して描かれている。
なお,いぬかわは寡聞にして知らなかったが,『ちびおおかみ』の絵本には邦訳がある。ハリネズミのトゲの帽子は,ネズミがハリネズミから借りてきたもの。……えっ,着脱自在??
(2001.12.25. 最終推敲:2002.11.15.)
■ ハリー・P氏とハリモドキ ■
『幻の動物とその生息地 Fantastic Beasts & Where to Find Them 』といえば,言わずと知れたホグワーツ魔法学校の指定教科書のうちの1冊だが,同校に在籍した生徒たちの中でもおそらく最も有名な1人,ハリー・P氏の所有するこの教科書の複製版が,期間限定で,マグル(=非魔法使い)向けに刊行されている。
同書は,ハリー氏とその学友でやはり世界中にその名を知られたロナルドとW,ハーマイオニー・Gの両氏による書き込みが忠実に再現されていることが特徴。英国のコメディアンたちによる国際的貧民救済チャリティ組織「コミック・リリーフ Comic Relief」の活動の一環として制作され,邦訳版は静山社から松岡佑子訳で刊行されている(2001.09.)。
ハリー・P氏の活躍を記録した本は,現在計5巻が刊行されており(ただし4巻と5巻はそれぞれ上下2分冊),日本ではいずれもこの『幻の動物とその生息地』と同じ静山社から出ているが,最初の3冊までは,ハリネズミのハの字も登場していない。だが,番外編ともいうべき『幻の動物とその生息地』には,ハリネズミにそっくりな幻獣が記載されているのだ。
ナール Knarlつまり,もしも今,目の前をのそのそ歩いているハリハリ野郎が,普通のハリネズミなのかナールなのかを,どうしても確かめたくなってしまったとしたら,庭をムチャクチャに破壊されるのを覚悟の上で,そこに餌を置いてみるしかないわけである。
M.O.M分類 XXX
マグルはナール(北ヨーロッパ及びアメリカ原産)を ハリネズミ とまちがえることが多い。この2つはまったく区別がつかないが,1つだけその行動に重大な違いがある。ハリネズミ 用に庭に餌が置かれていると,ハリネズミ はありがたくそれをちょうだいするが,ナールの場合は,庭に餌が供えられていると,家主が自分を罠にかけようとしていると考え,その庭の植物や飾り物をメチャメチャに壊してしまう。子供マグルが,いたずらして壊したと叱られることが多いが,真犯人は腹を立てたナールだ。
(p.69)
ちなみに,ナールが,ヨーロッパでは北部にしか棲息しない代わり,ハリネズミの棲息しないアメリカにも分布しているらしいことは,注目に値する。
なお,ハリー・P氏の活躍を記した4巻目の本『炎のゴブレット』には,ハリネズミが2度,登場している。
1度目の方は,単なるレトリックとしてに過ぎない。
パーシーは、まるで ハリネズミ が置いてある椅子に座ろうとしているかのように、ひっきりなしに椅子から飛び上がっては、ピンと直立不動の姿勢をとった。
(第8章 クィディッチ・ワールドカップ,上巻 p.155.,松岡 佑子 訳)
Percy jumped to his feet so often that he looked as though he was trying to sit on a hedgehog.
(Chapter 8: The Quidditch World Cup, by J.K.Rowling)
だが,2度目は,「変身術」の授業の中で,確かに本物の生きたハリネズミが教材に用いられていることが明らかにされている。
「…(前略)…このクラスで ハリネズミ をまともな針山に変えることができたのは,ミス・グレンジャーただ一人です。お忘れではないでしょうね、トーマス。あなたの針山は、何度やっても、だれかが針を持って近づくと、怖がって、丸まってばかりいたでしょう!」
(第15章 ボーバトンとダームストラング,上巻 p.363.,松岡 佑子 訳)
'...Miss Granger remains the only person in this class who has managed to turn a hedgehog into a satisfactory pincushion. I might remind you that your pincushion, Thomas, still curls up in fright if anyone approaches it with a pin!'
(Chapter 15: The Quidditch World Cup, by J.K.Rowling)
5巻『不死鳥の騎士団』には,幻獣ナールへの言及がやたらとある。
「お気の毒さまーだ。二十ガリオンから、びた一クヌートもまけらンねえ」
「ダングは冗談が好きでね」フレッドがハリーに言った。
「まったくだ。これまでの一番は、ナールの針のペン一袋で六シックルさ」ジョージが言った。
(上巻 p.275)
「それで、あなたはこのクラスで、今年何を教える予定ですか−−もちろん、ハグリッド先生が戻らなかった、としてですが?」
「ああ、OWLに出てきそうな生物をざっとね。あんまり残ってないがね−−この子たちはもうユニコーンとニフラーを勉強したし。わたしゃ、ポーロックとニーズルをやろうと思ってるがね。それに、ほら、クラップとナールもちゃんとわかるように……」
(上巻 p。508)
「ハグリッド、アンブリッジの査察に合格しなきゃならないのよ。そのためには、ポーロックの世話の仕方とか、ナールとハリネズミの見分け方とか、そういうのを教えているところを見せた方が絶対いいの!」ハーマイオニーが真剣に言った。
(下巻 p.37)
「あそこで何を飼っているんだろう? ハグリッドは何か言った?」ハリーが聞いた。
「ううん」ハーマイオニーはがっくりしていた。「驚かせてやりたいって言うのよ。アンブリッジのことを説明しようとしたんだけど、どうしても納得できないみたい。キメラよりナールのほうを勉強したいなんて、まともなやつが考えるわけがないって言うばっかり−−あら、まさかほんとにキメラを飼ってるとは思わないけど」
(下巻 p.41)
「世の中にゃ、職を守るよりも大切なことがある」そう言いながらも、ハグリッドの両手が微かに震え、ナールの糞で一杯の桶を床に取り落とした。「オレのことは心配するな、ハリー。さあ、もう行け、いい子だから」
(下巻 p。290)
ハリーは、ハグリッドの体面を保つために、火曜日の「魔法生物飼育学」は絶対よい成績を取ろうと決心していた。実技試験は禁じられた森の端(はた)の芝生で、午後に行われた。まず、十二匹のハリネズミの中に隠れているナールを正確に見分ける試験だった(コツは、順番にミルクを与えることだ。ナールの針にはいろいろな魔力があり、非常に疑り深く、ミルクを見ると自分を毒殺するつもりだと疑って凶暴になることが多い)。
(下巻 p.462-3)
(2002.03.25. 最終推敲:2004.09.21.)